地方から業界トップへ “しあわせの循環”で広がる共創経営の可能性

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「社員にフォローしてもらえるような経営者でありたい」

そう語るのは、生姜の名産地・高知県で食品加工業を営む株式会社あさので代表取締役社長を務める浅野平二郎さん。
株式会社あさのは、高知県産の生姜を主原料とする食品の製造・販売を手がけ、地域の農業と密接に連携しながら事業を展開。生姜の新たな価値の創出にも力を注いでいる。

浅野さんが社長に就任したのは28歳のとき。事業承継当時、売上は40億円前後だったが、その後も成長を続け、現在では70億円規模にまで拡大している。地方の一次産業を軸とした食品加工業としては、業界でもトップクラスの水準であり、「生姜といえば、あさの」と認知される存在へと成長を遂げてきた。

本記事では、若くして家業を引き継いだ浅野さんが、どのような経営判断を重ねてこの成長を実現してきたのか。事業承継の経緯から、生姜産業への向き合い方、そして地域に根ざした経営のこれからについて話を伺った。

loconomiQ 編集長 ソウルドアウト株式会社
北川 共史 TOMOFUMI KITAGAWA
専務取締役 COO グループ執行役員

1984年北海道札幌市生まれ。2007年に株式会社オプトへ入社し、ソウルドアウト創業に参画。営業領域の責任者として全国の中小・ベンチャー企業支援を拡大し、ソウルドアウトの東証マザーズおよび東証一部上場に貢献。その後、CROやマーケティングカンパニープレジデントを歴任し、2024年より専務取締役COOに就任。
現在は「ローカル×AIファースト」戦略のもと、全国拠点展開とデジタル活用を通じて地域企業の成長を後押しし、日本経済の持続的な活性化に取り組む。

目次

予期せぬ事業継承から見出した「支えられるリーダー像」

浅野さんは28歳の若さで会社を継ぎ、代表取締役社長に就任されています。その経緯について教えてください。

私は5人兄弟の末っ子として、高知県香美市で生まれ育ちました。上に姉や兄が4人いたので、自分が会社を継ぐとはまったく思っていませんでした。

大学進学を機に東京へ出て、そのまま都内で就職活動をしていました。将来は東京でサラリーマンとして一生を過ごすのだろうと、ごく自然に考えていました。そんな矢先に、後継者と目されていた一番上の姉が交通事故で亡くなってしまったのです。当時の社長だった伯父や、母からは「高知に帰ってきてくれないか」と涙ながらに連絡があり、迷いはありましたが「少しでも力になれれば」という思いで帰郷を決心し、家業に入社しました。入社後は「いつか自分が会社を継ぐことになるかもしれない」という思いで必死に仕事を学んでいきました。

28歳の時に、ふたたび大きな転機が訪れます。伯父が倒れ、意識が戻らないまま帰らぬ人となってしまったのです。当時は「自分が社長になるのは、まだずっと先のこと。伯父が会社を牽引してくれるだろう」と信じていました。けれども、思いがけずその時が訪れ、周囲に支えられながら新社長として歩み始めることになりました。

突然すぎる出来事に、戸惑いや不安も大きかったのではないかと思います。予期しないタイミングでの事業承継という経験は、浅野社長にどのような「覚悟」をもたらしたのでしょうか。

高知県に戻ってきた時が最初の覚悟だったと思います。

伯父は「お前のやりたいようにやれ」と言ってくれる職人気質の人で、経営のことを一から教わるというより、その背中から仕事への姿勢を学びました。ただ、リーダーとしての在り方については、伯父とは少し違う道を歩みたいという思いがありました。私はどちらかといえば、人を支える「縁の下の力持ち」タイプ。伯父のように強いリーダーシップで引っ張るよりも、周囲と力を合わせながら進む方が自分らしいと感じていたのです。

このような流れで、「社員に自然とフォローしてもらえるような経営者でありたい」と自然と考えるようになりました。経営者が一人で背負うのではなく、社員一人ひとりの裁量を尊重し、現場で力を発揮してもらえるような、ボトムアップ型の経営をしたいと決心したのです。

社員から「この人を支えたい」と思ってもらえるような経営者を目指すようになった背景には、なにか子ども時代からの原体験があったのでしょうか?

子どもの頃を振り返ると、家庭を顧みずに働く親の姿を、どこか寂しく感じていたように思います。当時は「父親は仕事一筋でいるのが当たり前」という価値観が強くて、私自身も「父親が子どもの運動会に来るなんて考えられない」という環境で育ちました。

だからでしょうか。反面教師というわけではありませんが、高知に戻ると決めた時には、「家族の“しあわせ”を大切にしたい」という価値観が芽生えていた気がします。また、今の時代は、家族との時間を大切にすることがより求められていますし、私自身もその価値を実感しています。家族も社員も、みんなが“しあわせ”であることが大切で、その“しあわせ”は共に創るものだと思うのです。家族や社員と支え合いながら一緒に“しあわせ”を築く。そんな経営を目指しています。さらにそれは、生姜を育ててくれている地域の生産農家の皆さんに対しても、まったく同じ気持ちでいます。

「共に成長する戦略を目指して」生姜農家・競合他社との共存共栄の道

生姜を扱う企業として、生産農家の皆さんを大切にされているのはなぜでしょうか?その考えに至ったきっかけを教えてください。

生姜の生産農家の皆さんは、私たちの事業を支える“土台”のような存在です。生姜の産地である高知県が元気でなければ、私たちの業界そのものが成り立ちません。だからこそ、生産農家の皆さんや地域の方々と共に発展していくことが、最も大切だと考えています。

この思いを強くしたのは、忘れられない出来事があったからです。

ある年、生姜が不作となり仕入れが難しくなった時のこと。ある生産農家さんに「お前のところには売らない」と断られてしまったのです。過去にこちらの都合で仕入れを断ったことがあり、その記憶が信頼を傷つけていたのでしょう。「都合のいい時だけ取引したい」と言われて、納得できる農家さんはいません。この経験を通して、「こんな思いを、二度と誰にもさせたくない」と心に誓いました。

それ以来、私たちは生産農家さんが丹精込めて育てた生姜を、責任を持って買い支えることを大切にしています。結果として、それが自社の事業を守り、地域全体の活力にもつながる。そうした“共に支え合う関係”こそ、地域に根ざす企業として果たすべき使命だと感じています。

高知県は生姜の生産量で全国トップとのこと。その中で貴社が加工業においてトップシェアを維持している最大の要因は何だとお考えですか?

私たちが大切にしているのは、「競合相手を、競合相手にしない」という考え方です。

地方の加工業は、原料の確保が不安定になった瞬間に成り立たなくなります。また、価格競争に陥れば体力のある企業だけが残り、結果として業界全体が痩せ細ってしまう。そうした状況を避けるには、競い合う構造そのものを変える必要がありました。実際、私が入社した当時、高知県内には40社ほどの加工業者があると言われていましたが、今では10社あるかないかという状況です。

もともと当社は、規格外の生姜や端材を「エキス」や「粉末」に加工する独自の技術を持っていました。そこで発想を転換し、通常ならライバル関係にある他の加工業者にも声をかけ、廃棄予定だった端材を買い取る取り組みを始めたのです。

相手企業にとっては捨てるはずのものが収益になり、私たちにとっても原料を安定的かつ安価に確保できる。つまり、競合を“協業相手”へと転換し、互いにWIN-WINの関係を築いたわけです。

このような取り組みが、業界内での信頼やつながりを育て、結果としてトップシェアの維持につながっているのだと思います。また、もう一つ強く意識してきたのが「単価を下げない」という判断です。プライスリーダーである立場の企業が単価を下げてしまえば、業界全体が価格競争に巻き込まれ、誰も生き残れなくなります。だからこそ、価格競争を避け、生姜そのものの価値を高める方向に舵を切りました。業界全体が健全に利益を確保し続けられるようにすることも、私たちが果たすべき大切な使命だと考えています。

タイムマシン経営による海外展開と、研究に基づく商品価値の向上

2022年からタイの生産工場が稼働しています。タイに生産拠点を設けた背景について教えてください。

もともとタイには紅生姜の加工会社があり、以前から取引がありました。ある時、当社の冷凍技術を生かして協業できないかという話が持ち上がり、共働き世帯の増加で冷凍食品の需要が高まっていたタイ市場に、私たちの冷凍生姜製品を提案することにしたのです。

タイの取引先は、現地での生姜調達に強く、自社で工場も保有していたため、理想的なパートナーでした。こうしたご縁のもと、2021年にタイ現地法人「ASANO SK GINGER CO., LTD.」を設立し、生姜をはじめとした現地農産物の加工に特化した体制を整えました。

私たちは、日本の高度成長期のように市場拡大が期待できるタイで、いわば「タイムマシン経営※」の形でビジネスを展開していけると考えています。

※タイムマシン経営:先進国で成功したビジネスモデルを、経済発展途上の国で展開する戦略。

研究開発(R&D)については、どのような取り組みを行っているのでしょうか?

「生姜は体に良い」という言葉をよく耳にしますが、そのイメージを科学的な根拠で裏付けたいと考えています。たとえば、体を温める作用や唾液の分泌を促す働きなどを、データとして明確に示すことで、生姜の本当の価値を伝えられるのではないかと思うのです。

現在は、地元の大学とも連携しながら、生姜の機能性に関する研究を進めています。研究で得られた知見をもとに、新しい商品の開発にも積極的に生かしていくサイクルを大切にしています。

「生姜の力を、もっと多くの人に、より良い形で届けたい」
このような思いを胸に、日々、研究開発に力を注いでいます。

地域に根ざす強みと、共感で集う人材 高知県から広げる事業の力

高知県というローカルに拠点を置き続けることは、ビジネス上の戦略においてどのような合理性があるとお考えですか?

私たちは、「生姜の特産地・高知」で事業を営んでおり、この土地に拠点を置く合理的な理由は三つあります。

まず一つ目は、商品の鮮度です。特に、他社から仕入れる生姜の端材は、時間が経つと品質が落ちやすい素材です。いくら流通が発達しても、鮮度の高い原料を安定して確保するには、やはり産地に近い場所に拠点があることが大きな強みになります。

二つ目は、生産農家さんとの「距離感」です。顔の見える関係性の中で、信頼を積み重ねながら原料調達を行うには、地元に根を下ろしていることがとても重要だと感じています。

三つ目は、人材の定着です。高知県には「地元の食文化」を大切にしている人が多くいます。当社の社員も、県内出身者が中心で、「高知の食を誇りに思う」「高知の農業を守りたい」という強い思いを持って働いてくれています。

私が社長に就任した当時、経営の最優先課題として明確に掲げたのは「社員の定着率を上げること」でした。地方の加工業では、高度な設備があっても、それを使いこなせる人がいなければ意味がありません。当社の工場には高度な加工技術を要する設備がありますが、それを支えているのは、長く働き続けてくれている社員一人ひとりの技術と経験です。

社員が定着することで、加工技術や現場の工夫が社内に蓄積され、生産性と品質の両方が高まっていく。その積み重ねが、結果として事業の成長、そして売上の伸びにつながってきたと考えています。高知県に拠点を置くことは、理念に共感する人材が集まりやすいだけでなく、人を育て、力を発揮し続けてもらうための合理的な経営判断でもありました。

人材採用という面ではどのような課題がありますか?

私自身の経験からも分かるように、高校卒業後に県外の大学へ進学し、そのまま地元に戻らず就職する人は少なくありません。そのため、新たな人材を採用すること自体は簡単ではないのが現実です。

そこで、私たちが伝えていきたいのは、「地元・高知県の一次産業を守ることの意義」です。東京や都市部で働くだけが正解ではなく、地方で働くからこそ得られるやりがいや、地域への貢献もあるということを、もっと若い世代に届けていきたい。ローカルで働く意味を改めて感じてもらえるような発信や仕組みづくりに、今後一層力を入れていきたいと考えています。

原料高時代を乗り越え、人の“しあわせ”づくりに貢献する未来を描く

貴社では、2027年の売上高100億円達成を目指す「100億宣言」を掲げられています。今後、具体的にどのような取り組みをされていくのでしょうか。

まずは、情報の共有スピードを高め、現場がすぐに反応できるようなシステムの整備が必要です。食品業界は農産物の相場に左右されやすく予測が難しいものの、私たちは2026年に売上高100億円を見込むまでに成長してきました。ただ、原料価格の高騰などで売上が過去最高でも赤字になることもありますから、社内の情報連携をより強化して、日々の粗利に敏感になれる仕組みを整えたいと思っています。

また、生産性の向上も大きなテーマです。これまで取り組んできた機械化・自動化をさらに進めるとともに、先ほどお話した研究開発や商品開発、ブランディングにも注力していきます。他社より価格が高くても選ばれるような“価値ある商品づくり”を通じて、地域に根ざした安定した経営基盤を築いていきたいです。

M&Aなどの戦略は考えていらっしゃるのでしょうか?同業他社を買い取ってグループ経営していくような構想はありますか?

M&Aも、今後の展開の一つの選択肢として考えています。特に近年は、生姜の仕入れが以前より難しくなってきており、安定した原料確保のためにも、協業や連携の機会はますます重要になると感じています。

とはいえ、最も大切なのは「理念の一致」です。いくらビジネス上のメリットがあっても、根本的な考え方や価値観が合わなければ、長期的に良い関係は築けません。共通の思いを持ち、同じ方向を向いて進めるパートナーと手を取り合っていく。それが私たちのスタンスです。

貴社の経営理念である「共に創るしあわせ」という思いと共に、どのような未来をつくっていきたいとお考えですか?

私たちはこれまで、地元・高知県の生姜産業とともに歩んできました。そして今、気候変動や物価上昇など、業界全体が大きな変化に直面しています。

私たちの使命は、生産農家の皆さんが育てた魅力ある農産物を、当社の加工技術で支え、新たな需要を創出すること。そして、少子高齢化・人口減少が進む日本において、一次産業を元気にすることだと考えています。

私たちの活動を通じて、生産農家・社員・お客様を含むすべてのステークホルダーの“しあわせ”を共に創っていく。その思いを胸に、これからも地域とともに未来を築いていきたいと強く願っています。

本日はありがとうございました。