田植えが終わった6月の庄内平野。この地域が一年で最も美しい表情をみせる季節、私たちは株式会社SHONAIを訪ねた。
代表の山中大介氏は、三井不動産を経て、縁もゆかりもなかった山形県庄内地方へ移住。資本金10万円で起業し、水田に浮かぶホテル「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」(以下スイデンテラス)を起点に、農業、人材・企業支援、教育へと事業を広げてきた。現在、「100億企業を1000社創出する」という構想を掲げ、地域から日本の経済構造そのものを変えようとしている。
山中氏の話を聞いてみえてきたのは、地域に向き合ううえで、理想を語ることから逃げてはいけないという姿勢。そして、その理想を綺麗ごとで終わらせないためには、事業として稼ぐ力が必要だということだった。
稼いだものを次世代へつなぐ。SHONAIの挑戦は、その循環を地域に実装しようとする試みでもある。
人が集まり、資金が集まり、地域が本気で変わろうとしている。その中心で山中氏は、何を見据えているのか。SHONAIの成長戦略、独自の資金調達、組織づくり、そして地域で経営することのリアルを聞いた。
1984年札幌市生まれ。2007年オプト入社、ソウルドアウト創業に参画。営業責任者として中小・ベンチャー支援の拡大を牽引。事業成長ならびに上場に貢献した後、CRO、マーケティングカンパニープレジデントを経て、2024年より専務取締役COO。現在は「ローカル&AIファースト」構想を掲げ、全国拠点展開とデジタル活用を通じた地域企業の事業成長支援を推進。2026年4月、代表取締役社長CEOに就任。あわせて、博報堂DYホールディングス執行役員に就任。
目次
東京から山形庄内に移住。スイデンテラス誕生までの道のり
はじめに、SHONAIについて教えてください。
SHONAIは、「農業」「観光・不動産」「企業支援」、この三つの領域に徹底投資をしている庄内地方発のベンチャー企業です。
僕たちは、地方が自立するためには、地域資源を活かして外貨を稼ぐこと、そしてその利益を子どもたちや次世代へ投資していくこと、この両輪を回す必要があると考えています。
現在は、環境負荷を低減した米づくりの推進・生産支援や農業ロボット事業を展開する「NEWGREEN」、ホテル事業を核に地域の観光・不動産価値を高める「ONE LOCAL」、地方の企業変革を伴走する「XLOCAL」という事業会社を運営しており、これらの事業を通じて得た収益の一部を教育事業へ投資し、子どもたちの成長につなげていくことを目指しています。
「地方の当事者に、世界と戦う力を」というミッションのもと、自分たち自身が地方の希望になる。その覚悟で事業に取り組んでいます。最終的には、自社で実践してきた経営ノウハウや仕組みを全国の地方企業に提供して、2040年までに「100億円企業を1000社創出する『SHONAI経済圏』」構想の実現を目指しています。
農業、観光・不動産、企業支援、そして教育への投資。現在のSHONAIは、複数の事業が連動する「コングロマリット企業」として成長しています。こうした形は、最初から明確に構想されていたのでしょうか。
12年前、山中さんは縁もゆかりもない山形県鶴岡市に移住され、バイオベンチャーのSpiberへ転職。その後、鶴岡市がもつバイオテクノロジーの研究施設「鶴岡サイエンスパーク」内に残されていた14haの未利用地の開発を任されたことがそもそものはじまりだったそうですね。まずは、その創業の起点から聞かせてください。
最初は資本金10万円からのスタートでした。そこから、地元の企業さんに株主として出資していただいたんです。皆さん「ここにホテルができて地域が盛り上がるならいいよね」という気持ちで応援してくださって。
実は、最初はプロジェクトカンパニーのような感覚で始めた会社でした。スイデンテラスができたら解散するか、あるいは行政などに引き継ぐ選択肢もあるのではないか。そのくらいの考えで立ち上げた会社だったんです。
ただ、ホテルを作ったことで注目度が高まり、人材も集まり、地域の方々からの期待も一気に大きくなっていきました。すると地元企業や農家の方から、直接相談を受ける機会も増えていったんです。
せっかく移住してきたのだから、目の前の課題に応えるために、やれることは全部やろう。そうやって地域に必要なモノ・コトに取り組み続けてきた結果、現在の三つの領域に広がった形です。
では、スイデンテラス建設のプロジェクトを、どのように前へ進めていったのでしょうか。最初に取り組んだことから聞かせてください。
まず必要だったのは、地権者の方々の同意を集めることでした。地権者集会を開き「この土地を買わせてください。まずは協議のテーブルについてください」とお願いして。その後、一軒一軒訪ねて、直接お願いしながら同意をいただいていきました。
当時の資本金は10万円。資金の目処が十分に立っていたわけではありませんでしたし、地権者の方々、金融機関、地元企業の皆さんに一つずつ信頼していただく必要がありました。
地権者の同意、資金集め、行政の許認可、プランづくり、建設マネジメント。一つずつ課題をクリアしていくうちに、少しずつ空気が変わり、応援してくれる人も増えていきました。結果的に、地元の山形銀行さんをはじめ、地元企業や個人の皆さんから、23億円の資金を調達することができました。
そうした苦労を経て、事業は少しずつ広がっていったのですね。
正直、会社を大きくしようという意識は、当時ほとんどありませんでした。
ビニールハウスを12棟建てたり、レストランを作ったりもしていましたが、いずれも数千万円規模のビジネスです。今のスイデンテラスは売上9億~10億円規模の事業になっていますが、当時は地域の困りごとに向き合いながら、キャッシュが回る範囲内で少しずつ取り組んでいただけでした。
スケールさせようという意識はほとんどなく、目の前の課題にただ応えているという感覚のほうが強かったんです。
だから、今の僕が当時の自分に声をかけるなら、まずは一発殴りますね。「最初からもっと大きな視点で始めろ」と言いたいです。当時は本当に視座が低かった。今振り返ると反省しかありませんね。
地域の期待を、次の挑戦へ。SHONAIに資金と仲間が集まる理由
SHONAIの事業は、農業、観光・不動産、企業支援と多岐にわたります。グループ全体では、どのようなシナジーが生まれているのでしょうか。
実は、一番のシナジーは「資金調達」の領域ですね。
SHONAIには、ホテルがあり、アイガモロボがあり、農業の事業があり、企業支援の事業もある。とにかく、「入口(事業)」がたくさんあるんです。
入口が多いと、興味をもってくださる人の層もあらゆる方面に広がります。観光に惹かれる人もいれば、農業に可能性を感じる人もいる。地方企業の変革に関心をもつ人もいる。
そうした多様な人たちの最大の共通項が、結果として「応援したい」「出資したい」という思いに行き着いたのだと思います。
資本金10万円から始まった会社が、今ではグループ累計で約78億円を調達しています。投資家や企業との接点は、どのように生まれていったのでしょうか。
実は、こちらから資金調達をお願いしにいったケースはほとんどありません。多くは、人とのご縁と事業のタイミングが重なって生まれています。
たとえば、出資していただいているユナイテッド代表の早川さんとのご縁もそうでした。ユナイテッドの子会社の方が全天候型の児童教育施設「BahnFusion SORAI」へ視察に来られたことがあり、その方から早川さんにSHONAIのことを紹介していただいたんです。ちょうど早川さんが農業分野への投資を考えていたタイミングと、僕たちの事業が重なり、出資につながりました。
TDKや井関農機、クールジャパン機構など、規模も性質も違うステークホルダーと資本提携をされています。そうした多様なステークホルダーと、どのように関係を築いているのでしょうか。
前提として、「流れ」は自分たちでつくらなければいけないと思っています。
たとえば、僕たちが開発しているアイガモロボ。「これがあれば農家さんが助かる。日本の農業や地域がもっと良くなる」という確かな思いがまずある。その思いに共感してくださったからこそ、大手電子部品メーカーのTDKさんや、農機大手の井関農機さんにも出資していただいたのだと思います。
もう一つおもしろいのは、都市部の企業との関係性です。多くの企業は「都市部から地方へ攻めていく会社」ですが、僕たちは「地方発で全国に攻めていく」会社。物語の起点と終点が逆なんですよね。
だからこそ、相手にとってもSHONAIの挑戦を応援する意味が生まれる。お互いに補完し合える関係性をつくれるのだと思います。多様なステークホルダーと一枚岩になるために大事なのは、僕たち自身が役割を果たすことです。
上場企業である大手企業にとって、前例がなく、IRで説明しづらいリスクの高い挑戦はなかなかできません。だからSHONAIは、大手企業にはできないような発想やチャレンジを、リスクを取って思いっきりやる。
その役割を全力で果たしているからこそ、多様な企業と深いシナジーを生み出せているのだと思います。
組織が拡大し、関わるステークホルダーも増えるなかで、地元の株主の方々との関係性に変化はありましたか。
関係はあまり変わっていません。地元の株主の皆さんは、今も腰を据えて応援してくださっています。
僕らが「SHONAIグループとして上場を目指します」と話しても、正直、「本当にできるのか」と半信半疑で聞いている方もいると思います。それでも温かく土台を支えてくださっているんですよね。
その土台の上に、TDKさんや井関農機さん、中部電力さんのような大手企業が、事業ごとに僕たちを支えてくださっている。SHONAIは、地元の期待と、都市部の大手企業の力が重なり合う場所にいるのだと思います。
モンテディオ山形の新スタジアム計画への関わりも、SHONAIが地域から期待される存在になっていることの象徴のように感じます。山中さんは、モンテディオ山形の取締役にも就任されていますよね。
モンテディオ山形は、J2でも平均観客動員数がトップクラスに入るほど、地域に愛されるクラブです。今は山形県総合運動公園などを運営しながら、J1昇格を目指しています。
そのなかで、相田社長が強い思いをもって進めていたのが、新スタジアム整備計画でした。ところが、その計画は当初見込んでいた出資の枠組みに変更が生じ、新たに約50億円の資金調達が必要になるという、厳しい局面を迎えていました。
期限も迫るなか、相田社長から「投資家を紹介してほしい」と連絡をいただいたんです。そのとき、僕は直感的にエスコンしかないと思いました。エスコンは北海道日本ハムファイターズのホーム球場「ES CON FIELD HOKKAIDO」を運営するディベロッパーです。通常のルートでは時間がかかると感じたため、直接やり取りのあったエスコンの伊藤社長に「山形の宝であるモンテディオが危機なので、相談に乗ってほしい」とお願いし、相田社長をおつなぎしました。
僕自身、生粋のサッカー少年でしたし、山形に移住してから何度もスタジアムに足を運んできました。モンテブルーの熱狂的な応援を背に戦う選手たちは、いつも山形に感動を届けてくれる。だからこそ、モンテディオ山形の未来を止めてはいけないと思いました。
その後、僕はモンテディオ山形の取締役に就任しました。取締役として実現したい夢は二つあります。一つは、モンテディオ山形がアジアチャンピオンズリーグに出場すること。もう一つは、モンテディオを核に、山形が世界に誇るスポーツタウンになることです。
そのために僕が担うべき役割は、夢を実現するために必要な資金を獲得すること。山形から、世界に誇るサッカーチームとホームタウンをつくっていきたいです。
地元の株主の皆さんも、この動きをすごく喜んでくださいました。自分たちが直接投資した先ではなくても、SHONAIグループが前に進み続けることで、山形の希望ともいえるプロジェクトが動いていく。そこに、僕たちが存在している意味を感じてくださっているのだと思います。
遠心力と求心力のバランスを保って組織をつくる
組織づくりについても教えてください。創業から12年で社員数は260人を超えました。SHONAIグループに人が集まる理由はどこにあるのでしょうか。
僕たちの組織には、強い遠心力が働いていると思っています。
遠心力がなければ、事業は伸びません。一方で、遠心力が働きすぎると組織は崩れてしまう。だからこそ、求心力とのバランスが大事なんです。
では、SHONAIにとっての求心力は何か。それは、「地方をドメインに、地方の可能性を広げるビジネスに本気で向き合っている」という共通項だと思います。
メンバーのタイプは本当に様々です。前に出ていくイケイケなタイプの人もいれば、慎重で保守的な人もいる。それでも、地方から新しい価値を生み出したいという思いは共通している。
その象徴が、僕たちにとっては「庄内」です。普通に考えれば、マーケットとしては決して簡単な場所ではありません。けれども、この辺境ともいえる場所から、全国や世界に通じる100億企業をつくろうとしている。逆境での挑戦そのものが、メンバー全員の誇りになっているのだと思います。
複数の事業領域を同時に手がけていると、KPIもキャッシュフローも当然異なります。その難しさはありませんか。
大変さはありますが、そのカオスな状態を、みんなで楽しんでいる感覚があります。
NEWGREENやXLOCALについては、進むべき方向性がかなり見えてきました。一方で、オペレーションを磨いていくフェーズに入っても、想定していなかったチャンスをいただくこともあります。
計画どおりに進めるだけではなく、その都度、新しい可能性を取り込みながら進んでいく。その意味では、SHONAIはまだまだカオスです。でも、今はそのカオスを楽しみながら、各社がそれぞれの領域で突き抜けていく時期にいる。2028年度ぐらいまでは、そこに集中していくフェーズだと考えています。
一方で、すでに事業同士がつながる動きも生まれています。たとえば、人材・経営支援を行うXLOCALの支援先企業と、観光・不動産領域のONE LOCALとの協業が生まれたり、XLOCALの支援先企業が農業領域のNEWGREENに参画したりしています。
農家さんが自分たちでホテルをつくりたいと考えたときに、スイデンテラスを参考にしながら、6次産業化の一環としてホテル経営に取り組むケースもあります。
各社がそれぞれの領域で突き抜けていくなかで、山中さん自身はどの領域に深く関わっているのでしょうか。
僕が基本的に口を出すポイントは三つです。ファイナンス、マーケティング、組織づくり。この三つには徹底的にこだわっています。
ファイナンスはキャッシュに関わる部分なので、判断を誤ると会社全体に大きな影響が出て危険です。マーケティングは、サービスが売れるための仕組みと仕掛けをつくるところ。ここにもかなり関わるようにしています。戦略づくりについても、自分でかなり動いていますね。
戦略づくりには、どのように関わっているのですか。
今は、毎日昼の1時間を各社の営業定例に充てています。12時から12時半はNEWGREEN、12時半から13時はXLOCALです。
営業の現場で起きている課題を、CSやマーケティングにどうフィードバックするか。そこを週次や月次ではなく、デイリーで見ていくためです。関わるメンバーには基本的に参加してもらい、出られない場合も各部門から必ず誰かが出るようにしています。まだ試験的に始めた取り組みですが、すごく手応えがありますね。
戦略や組織をまたぐ課題については、任せきりにするのではなく、僕自身も現場の情報に触れながら判断していく必要があると考えています。
現場に入り込むことで、山中さん自身の視点を事業に反映しているのですね。
そうですね。特にXLOCALは、僕自身がサービスの受益者でもあるんです。地方で経営者として事業をしているなかで、何に困り、何を必要としているのか。その感覚こそが、サービスづくりにおいて大事だと思っています。
共同代表の坂本さんは都市部のITベンチャー出身で、ビジネス体力もネットワークも圧倒的にある人です。一方で、地方企業の経営者として見えている景色は、僕のほうが解像度高くもっている部分もある。
だから、僕だけでも駄目ですし、坂本さんだけでも駄目なんです。坂本さんが見ている景色と、僕が地方企業の経営者として見ている景色を重ね合わせることで、事業の精度が上がっていく。そのすり合わせが大事ですね。
山中さん一人の突破力だけではなく、外部のプロ人材も加わっていますよね。
取締役の坂本大典さんや高木新平さんのような人たちは、まさにSHONAIが次のフェーズに進むために、出会うべきときに出会った感覚があります。
坂本さんは、究極的に「人」ではなく「こと」に向いている人です。事業がドライブするなら、自分の部下が他部署に引き抜かれることも歓迎する。自分を超えてくる人間も歓迎する。そういう意味では、僕と近いタイプかもしれません。
今期で売上70億円、来期で100億円を目指しています。特にグリーン事業、つまり農業領域が大きく伸びていて、組織の変化もかなり大きい。そのなかで、僕自身の役割や関わり方も変えていかなければいけないなと感じています。
ご自身の経営者としての強みはどこにあると思いますか。
僕の一番の強みは、どんな役割もこなせることだと思います。相手の役割に応じて、自分の立ち位置を変えていくのが得意なんです。
達成したいのは「こと」なので、そのために自分がどういう役割を担うべきかは柔軟に変えられます。ただ唯一、代替不可能な役割が「創業者である」ということです。
組織トラブルや人的な問題で、合理性だけではどうにもならない局面が出てきたときに、「最後は僕が引き受けるから、この方向で進めよう」とみんなに受け止めてもらう。それは創業者である僕にしかできない役割だと思っています。もちろん、基本的には合理的に判断できることが前提ですけどね。
教育へ還元する理由と経営哲学
SHONAIは、事業で生み出した収益の一部を教育に投資しています。教育に向き合うことには、どのような意味があるのでしょうか。
地域でどんな人が育ち、どんな選択肢をもてるようになるのかは、長い目で見れば地域経済の土台そのものに関わってきます。教育に関わるというのは、すぐに売上や利益につながるものではなく、ものすごく長い時間軸の話なんです。
僕たちは学童も運営してきましたが、当初から通っていた子どもたちは、今では中学生や高校生になっています。子どもたちの成長の「一時代」を預かり、その子どもたちが少しずつ大人になっていく。そのプロセスには、純粋な経済価値だけでは置き換えられない価値があると思っています。
教育に向き合うことは、SHONAIという組織にとっても大きな意味をもっています。地方をドメインにビジネスをしたい人たちにとって、地域づくりのなかで「教育」は非常に重要なテーマです。事業で生み出したものを教育に還元し、次世代に向き合う姿勢そのものが、圧倒的な組織の求心力になっているとも感じています。
教育への還元は、地域貢献であると同時に、経営にとっても意味のある取り組みだと捉えられているのですね。
地域に対して教育へ還元することは、一見すると綺麗ごとに映るかもしれません。でも、僕はそれでいいと考えています。
もちろん、綺麗ごとを語るだけでは意味がありません。本気で地域の未来や子どもたちに向き合い、行動し続けることが前提です。そのうえで、事業で生み出したものを教育に還元することは、結果的に経営にとっても大きな意味をもちます。
僕たちが教育に還元することで、地域の方が応援してくれる。SHONAIのファンが増えていく。そうやって、いろいろな人が僕たちの挑戦を支持してくれるようになる。
その意味では、究極的にはマーケティングだといえると思うんですよね。
これからのビジネスは、究極的にはファンマーケティングになっていくと考えています。だから、綺麗ごとを本気で実践する企業が増えれば、もっと豊かな社会になると思うんです。
教育への還元が、結果的に地域からの応援や組織の求心力にもつながっていく。だからこそ、綺麗ごとにみえることでも、本気で掲げる意味があるということでしょうか。
そうですね。今の経営者に求められるのは、どれだけ社員をわくわくさせられるか。そして、どれだけ綺麗ごとを大きな声で、堂々と語れるかだと思います。
それは経営者が担うべき役割でもあり、必要な要素でもあります。
ただ、綺麗ごとを綺麗ごとのまま終わらせては意味がありません。本気で向き合い、行動し続けるからこそ、人はそこに共感してくれるのだと思います。
もちろん、それをどう受け止めるかは一人ひとりに委ねられます。でも、その思想や綺麗ごとに共感して集まった人たちは、すごく強い。何をきっかけに集まったかも大事ですが、それ以上に大事なのは「何をなすか」だとも思うんです。
山中さんのお話を通じて、社会への還元と事業の成長を両立させることこそがSHONAIの経営思想だと感じました。一方で、IPOを目指すなかでは、教育への投資について株主への説明責任も生まれてくると思います。そのバランスはどう考えていますか。
まず大前提として、実際に向き合いながら、対話を重ねていく必要があると思っています。
ただ、僕たちの強みは、上場前からすでに教育への還元をやっていることです。つまり、SHONAIという会社の価値のなかに、最初からそれが含まれている。
僕は、これからの企業価値は、ブランド価値のような無形資産にこそ宿ると思っています。教育への還元は、SHONAIにとって一番のブランド投資です。
だから、そういう会社なのだと最初から伝えていく。そこに共感してくださる方に、株主として関わっていただく。そういうコミュニケーションをしていくつもりです。
「100億企業を1000社創出する」SHONAI経済圏構想
100億という数字を、グループとして明確に意識しはじめたのはいつ頃からですか。
SHONAIという社名に変える頃からですね。
大きなきっかけは、坂本さんや新平さんが経営メンバーとして加わったことです。それによって、事業計画のつくり方が変わりました。
以前から事業計画はつくっていましたが、資本政策もまだ明確ではありませんでしたし、グループ全体で目指すスケールも、今ほど大きくなかった。100億という数字も、まったく意識していませんでした。
それが、坂本さんや新平さんが加わり、経営メンバーのあいだで共通言語が生まれたことで、一気に変わっていきました。
経営幹部メンバーの意識も変わっていったのでしょうか。
変わりましたね。たとえば副社長の富樫も、外部イベントに出るようになりました。庄内で生まれ育ったメンバーが、外に出るようになったんです。以前は、そういうことはほとんどありませんでした。
XLOCALの営業現場を通じても、地方企業に共通する課題を改めて感じています。経営者自身は「変わりたい」「会社を変えたい」と思っている。一方で、経営陣は変化に慎重なことが多い。このギャップに対して、XLOCALとして提供できる価値があると考えています。
「100億企業を1000社つくる」というSHONAI経済圏構想は、どのように生まれたのでしょうか。
この言葉は、資金調達を始めるタイミングで考えたものです。
何かをやるなら、どこを目指すのかを明確にしなければいけない。僕たちには、地方企業の意識や目標、視座、テンションを引き上げたいという思いがありました。そのために、最もわかりやすく、キャッチーに伝わる言葉が何かを考えたときに出てきたのが、この「100億企業を1000社つくる」という目標でした。
地方企業の可能性を広げるためには、まず目線を上げる必要がある。その旗印として、この数字を掲げています。
その構想に向けて、現在はどのような手応えがありますか。
いま一番大きく変わっているのは、「100億シンクタンク」の対象を、経営者個人から経営チームへ広げようとしていることです。
経営者だけが変わろうとしても、経営チームが変わらなければ会社は変わりません。だからこそ、経営チーム全体で変化を起こせる状態をつくるためのソリューションをつくっていきたい。
それができるようになると、100億企業を生み出すための再現性も高まっていくと思っています。SHONAI経済圏の解像度も上がり、実現の確度も高まっていくはずです。
そして、何より説得力があるのは、僕たち自身が成長を実現していることです。SHONAI自身が100億に近づいているからこそ、そのノウハウを全国の地方企業に届けていけると思っています。
SHONAI経済圏が実現した先には、どのような未来をみていますか。
明確にやりたいことが二つあります。
一つは、教育ファンドをつくることです。返還不要の奨学金のような仕組みをつくり、その運用をしていきたいと思っています。
もう一つは、映画をつくることです。庄内にあるスタジオセディックで映画をつくりたい。将来的には、庄内の全市民25万人を巻き込み、CGに頼らないリアルな世界観で、本気でアカデミー賞を目指したいと思っています。
映画の題材に考えているのは、現在の鶴岡市を拠点にしていた庄内藩です。戊辰戦争で最後まで戦った庄内藩は、その徹底した姿勢や武士道精神から、「日本のラストサムライ」と称されることがあります。
庄内という場所には、そうした誇りがある一方で、歴史的なコンプレックスもある。敗者の側として語られてきた歴史を、世界に認められる作品へと昇華できたら、それは地域にとってものすごい誇りになるはずです。
地方が抱えるコンプレックスや怒りすら、誇りや希望に変えていく。そういうことをやりたいんです。
地域課題を事業に変え、次世代へ還元するSHONAIの挑戦。山中氏はなぜ、そこまで地域に向き合い続けるのか。
B面では、幼少期の原体験、父親としての生き方、そして「地方は憎くて憎くて愛おしい」と語る地域へのまなざしに迫ります。
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