地方企業でも世界へ届ける組織は作れるのか アニメスタジオに学ぶ「物語ドリブン経営」

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AIが全肯定する時代に「摩擦」を手放さない理由って?

「なぜ、地方から世界へ価値を届け続けることができるのか。」
富山県南砺市に本社を構えながら、国内はもとより世界中のファンへ作品を届け続けるアニメ制作会社がある。株式会社ピーエーワークス(P.A.WORKS)だ。
『花咲くいろは』『SHIROBAKO』などのオリジナル作品を手がけ、地方発の元請けスタジオとして独自のポジションを築いてきた。

同社を率いるのは、代表取締役・堀川憲司氏。
「作品をつくりたい、つくり続けたい」という一貫した意志を起点に、地方という制約の中で創造性を持続させる組織づくりに取り組んできた。その背景にあるのが、「物語ドリブン経営」という考え方である。
本記事では、同氏より人材育成の現実、オリジナルへのこだわり、そして未来への展望について聞いた。

北川 共史
loconomiQ 編集長 ソウルドアウト株式会社
北川 共史 TOMOFUMI KITAGAWA
代表取締役社長CEO

1984年札幌市生まれ。2007年オプト入社、ソウルドアウト創業に参画。営業責任者として中小・ベンチャー支援の拡大を牽引。事業成長ならびに上場に貢献した後、CRO、マーケティングカンパニープレジデントを経て、2024年より専務取締役COO。現在は「ローカル&AIファースト」構想を掲げ、全国拠点展開とデジタル活用を通じた地域企業の事業成長支援を推進。2026年4月、代表取締役社長CEOに就任。あわせて、博報堂DYホールディングス執行役員に就任。

株式会社ピーエーワークス沿革

目次

    地方企業でも世界に通用する組織は作れるのか?

    ピーエーワークスは、富山という地方都市に本社を置きながら、制作した作品を国内にとどまらず世界中へ届けている。

    この事実は、「地方=制約」という前提に対する一つの反証でもある。

    アニメ制作会社の9割が東京に集中するなか、地方で元請けスタジオを構えることにはどのような意義があるとお考えでしょうか。

    僕らがここを拠点にする以前にも、地方にアニメの制作拠点はあったんです。ただ、元請けとしてやっているところはほとんどなくて、作画パートを担う小さな会社がある程度でした。京都アニメーションさんのような例外はありましたが。

    ここ最近、人材不足が深刻になって、東京の元請けがサテライトオフィスとして地方に拠点を作り、そこで人を育てていこうという流れはできつつあります。ただ、一つのセクション、例えば作画だけを地方で担うというスタイルだと、東京には憧れの監督やスタジオがあって、「うまいから東京に来ないか」と誘われたら行きたくなるのが自然です。そうではなくて、地方に元請けとして本社を置き、そこから作品を発信するということが必要だと考えています。

    地方からの発信という考えは、創業当時から持っていらっしゃったのでしょうか。

    2000年に創業した時、そんなことは考えてもいませんでした。全ての根本にあるのは、「作品をつくりたい、つくり続けたい」という意志です。「つくり続けるためには何をすべきか」という問いが常にあって、そのモチベーションは今も全く変わっていません。

    地方から世界に向けて発信する意識は、後からついてきたものです。こんな田舎でも、地球の裏側のファンが喜んでくれるようなアニメーションが作れるんだと証明していきたい。何かの戦略や方程式のもとに会社を作ったわけではありません。やりたいことをやるために必要なロジックや構造が後から見えてきたという順序でした。

    なぜ人材は流出し、組織は続かなくなるのか?

    地方で人を育てるうえで、最も大きな課題は何でしょうか。

    アニメーターは職人なので、一人前になるのに10年ぐらいかかります。ところが、だいたい6年半ほど経って「これなら東京で十分やっていける」と本人が分かったタイミングで、みんな東京に出ていってしまいます。

    会社が嫌でやめるのではなく、若いうちに東京に出たいという憧れなので止められませんよね。
    かつて、10年間頑張って働いてくれた社員が、自分が育てた後輩たちが次々と巣立っていく無力感に疲れて辞めてしまったことがありました。「いつか一緒にものづくりができると思って教え続けてきたのに」と。

    その言葉を受けて、課題として本気で受け止めました。

    その課題に対して、どのような取り組みを始められたのでしょうか。

    「東京に行ったら何かいいことがあるかもしれない」という漠然とした憧れではなく、「ここにいたら3年後にこうなっていたい」「こんなものを作り出したい」という、内発的なビジョンを言語化できないかと考え、各部署で3年後の自分たちの姿を描く「3年物語」という取り組みを始めました。

    ところが実際にやってみると、3年後が思い描けない、ビジョンが描けないという声が出てきて、僕自身が衝撃を受けました。
    与えられたものに対してこなすことはできるけれど、こういうものが作りたいという熱量が自分から生まれてこない。これはとても根本的で、本質的な問題にぶつかったなと感じています。

    オリジナル作品をつくり続けられる意欲を維持しなければならない

    オリジナル作品と原作ものの比率について、業界にはどのような課題があるとお考えでしょうか。

    今、テレビシリーズにおけるオリジナル作品は本当に1割もないぐらいの状況ですが、せめて3:7ぐらいのバランスにしたいと思っています。 確かに原作ものの方が大ヒットを狙いやすいし、資本効率もいい。オリジナルはゼロから立ち上げる準備や企画が大変ですし、僕自身も4年間かけて温めた企画が白紙になった経験もあります。

    一方で、短期で大きな利益を上げるために原作ものばかりを続けていると、「こういう作品が作りたい」という意欲がなくなり、映像に加工する工場になってしまうんです。

    農業に例えると、離農と転作ばかりが進んで米を作る人がいなくなったら、もう元には戻れない。オリジナルを生み出す力は、一度絶やしたら取り戻せないものだと危機感を持っています。

    業界全体の再編も進んでいるとお聞きしますが、その動きをどのようにご覧になっていますか。

    M&Aで大手メーカーの系列に入る会社が増えています。出版社が原作を抱えていて、旬な時期にアニメ化してくれる制作会社が必要だという戦略は理もあります。知り合いの会社でも、赤字経営のなか苦渋の選択でそうした道を選ぶところはあります。

    しかしながら、どこかの系列に入るということは、作品の選択や作り方における意思決定を委ねることにもなりかねません。うまく回っているうちはいいけれど、戦略が変わったときに自分たちの未来を自分たちで決められなくなる。 だからこそ、自分たちの物語を自分たちで作り続けるための力を鍛えておかなければならないと考えています。

    「物語ドリブン経営」で挑む会社の課題解決

    「物語ドリブン経営」とは、具体的にどのようなものでしょうか。

    僕らはオリジナルの物語をたくさん作ってきたので、物語を作ることに興味のない人はいないはずです。そこで、会社の課題をひとつのストーリーとして捉え直し、物語の構造を使って解決方法を考えることを試みました。

    例えば、神話学者ジョセフ・キャンベルが体系化した「英雄の旅」の構造があります。 お告げを受けた主人公が旅に出て、試練を乗り越え、獲得したものを持ち帰る。この構造をプロジェクトに当てはめてみると、「お告げ」は上から降りてきた企画書かもしれないし、「師匠」はマニュアルかもしれない。

    物語の登場人物を機能として捉え直すことで、プロジェクトに何が足りないのかが見えてくるんです。

    その学びを社内にどう浸透させているのでしょうか。

    2026年の1月からワークショップを始めました。物語の解決パターンには大きく5つあると考えています。シンプルな勧善懲悪、弁証法的な対立の止揚、対立の間に媒介者を入れて別の構造で解決する構造置換、どの意見も潰さずバランスを取る中空構造型、そしてパラダイム転換型です。

    会社の課題に直面したとき、この5つのパターンでどう解決できるかを考えてみようという訓練をしています。 ただ教えるだけではなく、エンターテインメントとして面白がれるかを大切にしていて、ファンが見たら面白いと思えるようなストーリーとして課題を捉え直すことを目指しています。

    組織改革において重要な「いかに継続させるシステムをつくるか」

    社内の変革において、最も大切にされている考え方を教えてください。

    「環境」と「機会」と「継続」の三原則です。

    「環境」は、熱量の生まれる場所をどう設計するかです。自発的に動かない人でも潜在的な資質があり、機会があれば「面白い」と気づく人が15%ほど出てくる。その人たちをいかに見つけるかだと思っています。「機会」は、2〜3人の小さな単位でプロジェクトを仕掛け、引っ張っていける人を見つけること。「継続」は、社内報や社内SNSをルーティンに組み込むことですね。取引銀行の担当者に「社内改革の浸透に4年かかった」と聞き、それならば4年は続けようと決めました。

    変革においては言い続けることも大切だということでしょうか。

    言い続けるのはもちろんですが、もっと大切なのは、継続するためのシステムをルーティンの中に組み込むことです。「やろうぜ」と盛り上がっても、いつの間にか消えていったプロジェクトが過去にどれだけあったか。
     社内報で四半期に1回必ず報告する、SNSでプロセスをオープンにしていくといった仕組みがあることで、ようやく自分ごと化が始まると考えます。

    追いかけられることが定期的にあるから、真剣に向き合って動き出す。いかに継続させるためのシステムを作るかが、この25年間の経営で最も学んだことかもしれません。

    ファンと共に終わらない物語を更新し続けていく、そんな会社でありたい

    今後の展望についてお聞かせください。

    2028年から、60分ぐらいのオリジナル作品を自社出資とクラウドファンディングで制作し、全国各地で80人規模の上映会を開催するプロジェクトを、2年に1回のペースで実施できるよう動かし始めています。

     上映して終わりではなく、そこでファンと対話をして、このテーマについてどう思うかを聞いていきたいです。

    オリジナルの一番の魅力は、テーマを自分で決められることです。今の若い人たちが何に行き詰まりを感じているのか、どう未来の物語が描けないのかをテーマに、2年、3年かけて深く考えながら作品に落とし込んでいく。 この面白さを社内にも伝えていきたいと思っています。

    2030年代もオリジナルを作り続けるために、AIをどのように受け入れていくお考えでしょうか。

    生成AIで作られたものを見ると吐き気がするというクリエイターもいれば、その便利さに抗えないという人もいて、社内でも温度差が激しいテーマだと捉えています。 だからこそ、感情的な対立のまま終わらせるのではなく、この二項対立をどう受け入れてバランスを取っていくか、クリエーション部に投げかけています。時間をかけて「物語」としての落としどころを見つけてくれればいいですね。

    私自身は、アイデアのキャッチボールにAIを活用しています。ただ危険だと感じているのは、基本的に全肯定してくれることです。こんな企画どう思う?と聞いたら「素晴らしいですね」と返ってくるので、ストレスがありません。
     一方で、より強度の高いアウトプットをするために必要なのが、人間対人間の意見の摩擦です。AIで効率が上がったとしても、意図的に摩擦を作る環境は維持しなければならない。

    2030年代に向けてAIがさらに進化することは間違いない。それでも、人の物語を作る力の根は、対話と摩擦の中にある。そこだけは譲れないと思っています。

    あと1年半ほどで事業を次世代に承継されるとのことですが、承継後はどのような関わり方をお考えでしょうか。

    企業文化を作っていくという意味での経営の舵取りは次の世代に任せて、僕はどちらかというと育成の方に回りたいと思っています。 ワークショップもそうですし、1年目のアニメーターのレビューも毎週やっています。

    もう一つ、灯会(ランタン会)と呼んでいる全国を回る企画があります。この10年間は自立できる制作会社にするために社内に全振りしていたんですが、承継後はもっとファンの声を直接聞きに行きたい。

    僕らの会社はこういうことに取り組んでいて、これが僕らのアイデンティティなんだということを対話しながら伝え、その反応をまた作品づくりに生かしていく。 終わらない物語を、ファンと一緒に更新し続けていく会社でありたいと思っています。

    ファンと共に終わらない物語を更新していく、その組織を率いる堀川氏自身の物語はどこから始まったのでしょうか。次の記事では、アニメの道を歩み始めた堀川氏の人生の原点に迫ります。

    北川 共史

    北川 共史 TOMOFUMI KITAGAWA

    編集後記

    「作品をつくりたい、つくり続けたい」という一見シンプルな動機の奥にある、25年間の経営で積み上げてきた問いの深さが印象的でした。戦略からではなく意志から始まり、あとから必要な構造が見えてきた。その順序こそが、地方に本社を置く元請けスタジオとしての物語だと感じました。

    若手が東京へ向かう現実のなかで「3年後の自分」を描けないという声への衝撃と、英雄の旅や五つのパターンで課題を組み立て直す「物語ドリブン経営」。オリジナルへの危機感と、変革をルーティンに組み込む「継続」の設計が重なり、クリエイティブの現場ならではの発想と、組織を動かす覚悟の両方が見えてきます。

    一方で、生成AIが全肯定する時代にあえて「摩擦」を手放さないという発言は、技術と創作の間をどう保つのか、その問いを投げかけているようにも思います。事業承継を見据え、ファンと終わらない物語を更新し続けたいという展望に、経営の芯を見ました。

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